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2005年01月03日

K-1&PRIDE 大晦日決戦を振り返る

 前回の直前予想をふまえて、筆者なりの感想をつづってみたい。なお、読者の便宜を考え、前回の予想をそのまま掲載した後に(青色の部分)、今回の感想を記している。


 ■エメリヤーエンコ・ヒョードル×アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ

 8月のGP決勝戦がヒョードルのバッティング→流血で、まさかのノーコンテスト。波紋を呼んだ「頂上決戦」の再戦。
 初対決のタイトルマッチはヒョードルのパウンド(打撃)に圧倒されたノゲイラだが、8月の対戦では短時間ながらかなりの対応力を見せていた。
 しかし、アクシデント以外にヒョードルの負けるイメージが湧かないのも事実。フジテレビでも討論形式の戦前予想を深夜にやっていたが、ほとんどの人がヒョードル有利と言っていた。
 
 筆者もヒョードル有利説を支持しているが、理由はあくまで「運」の問題。
 番組のなかでターザン山本さんが、「我々は試合ではなく戦いを観にきているんだから、ノーコンテストでも、ドクターのストップがかかった以上、ヒョードルの負け!」と語っていたが、筆者の考えは少し違う。

 山本さんはストリートファイトのようなものを「戦い」と考えているようだが、それはシチュエーションの一つにすぎない。
 現実には、その場その場の状況の中で、必ず有利不利をもたらす条件が存在する。剣の達人でもぬかるみに滑って、雑兵に首を取られることもありうる。
 しかしその場で戦うことを選択したのは、他ならぬ本人だ。PRIDEというリングで、そのルールを飲んで戦っている以上、それはバーチャルなものではなく、やはりこれも戦いなのである。

 その意味で「骨まで達する切り傷」を負いながら、「負け」を宣告されなかったヒョードルは、強さだけでなく幸運も併せ持っていたことになる。山本さんの「ヒョードルは負けていた」という言葉にもある種のリアリティがあるが、それは裏返せば、彼がファイターとして必要な幸運さを持っていたことの証明にもなる。

 というわけで、8月の一戦に「すべて」を賭けながら、試合を中断させられたノゲイラは、ケガを負ったヒョードル以上に負荷を背負ったことになる。
 メンタルな面も含め懸命にコンディションを作り直してきただろうが、やはりこのシチュエーションでノゲイラが勝つということは、「大番狂わせ」と見るのが正しいと思う。
 微妙な判定になる可能性もあるが、そうなっても王者としてのアドバンテージのあるヒョードルのほうが有利だろう。

 ……やはり「大番狂わせ」は起こらなかった。もちろん、勝ったと言っても、ヒョードルの打撃はノゲイラをKOするには至らず、ギブアップを奪えたわけではない。
 その意味で僅差なんだろうが、その差は結構大きな気がする。ノゲイラとしては、ヒョードル並みの打撃力を身につけない限り、今後彼を脅かすことは難しいかもしれない。しかし、それは可能なんだろうか? ノゲイラの戦うモチベーションが、この先維持できるのか気にかかる。


 ■ヴァンダレイ・シウバ×マーク・ハント

 桜庭の無念の欠場により、急遽組まれたカード。だが、体重差があまりにあるため、シウバにとっては意外な落とし穴が待っている可能性も。
 両者が打ち合って、ハントが倒れるシーンがあまり思い浮かばない。もしかしたらシウバがグランドで攻めるシーンが多く見られるかもしれないが、それはそれで未知のシーンなので見てみたい気もする。

 *桜庭の欠場については機会を改めて書きたいと思う。

 ……「意外な落とし穴」という予想が的中してしまった。シウバ側は判定を不服としたが、得意の打撃でダメージを負った以上、結果は冷静に受け入れるべきだろう。
 確かに「名勝負」だったが、シウバは基本的にパワーで押すタイプなので、ヘビー級との対戦では持ち味が生かせないように思えた。
 一方のハントはセフォー戦以来の激戦を制したが、同じ体格の相手では吉田戦のような展開になってしまうはず。ともにこの先の戦いに課題を残したという感じか。


 ■ダン・ヘンダーソン×近藤有己

 打倒シウバと次期ミドル級GPでの優勝をねらうファイター同士の一戦。近藤は、日本人ファイター(スポーツ選手)特有の、「寡黙でとらえどころのない、戦意があってもそうは見えにくい」タイプの一人。
 同じタイプで一時代を築いた桜庭に多くは望めない状況である以上、このタイプの第一人者として去年のマリオ・スペーヒー戦のような「強さ」を発揮してもらいたいところだ。

 *近藤への「期待」は、対シウバ戦の感想を書いた回で簡単に触れている。

 ……判定は「?」だが、近藤が着実にスキルアップしているのを確認できた。
 彼の場合、勝っても負けてもつねに地力が総合的に上がっていく様子が感じ取れるので、負けが必ずしもマイナスにならない。本人もそういう意味での手応えは感じたのではないか。今後も淡々と見守っていきたい。


 ■ミルコ・クロコップ×ケビン・ランデルマン

 GP一回戦でまさかの敗北を喫したミルコの雪辱戦。ミルコ勝利の可能性が高いと思うが、彼がまたある種のエアポケットに陥る可能性も否定できない。
 それは油断とかそういうレベルの話ではなく、筆者が思うに、ミルコのファイターとしてのスタイルに関係している。徹底的に自己管理し、ストイックなトレーニングをする彼の生き方は、一見合理的なように見えて、つねに破綻と裏合わせであるからだ。

 人智だけで自然の力を制御できないように、自然の一部である自分自身を理性的に管理しても、収まりきらないものがどんどんと抑圧されてしまう。
 いまはハイペースで試合を組むことで、その抑圧を次の戦いのエネルギーに代えている感があるが(ある意味賢明なのだが)、それが計画通りにうまくいくとはかぎらない。このへんの自分の「弱点」をミルコがどこまで自覚できているかがカギだろう。

 おそらく順当に進めば、2月に一戦を挟んで、4月にタイトルマッチという青写真は彼の中にもあるはずだが、ストイックな状態を続ける期間が長すぎる。
 一番危険なのはむしろ2月のほうだと思われるが、どこかで彼なりの「力を抜く」すべをつかまないと、計画通り行っても、長期政権は難しいだろう。

 ……今回の戦いを見る限り、タイトルマッチまでは精神力も持続できそうに思えた。まあ、そうは言ってもミルコの場合、筆者の書いたような不安はつねにつきまとう。
 広い意味ではどの選手にも当てはまるが、ベルトが取れるかどうかは、精神と現実との「タイミング」にかかっていると思う。


 ■吉田秀彦×ルーロン・ガードナー

 柔道とレスリングの金メダル対決。ウエイトの違いから吉田不利が伝えられているが、筆者は吉田が腕ひしぎか三角締めで勝利という予想。
 イメージしているのは、軽量級の対決ながら、先ごろハワイで行われたホイラー・グレイシーと宮田和史の柔術×レスリングの一戦だ。シドニー五輪出場の宮田は、この試合がデビュー戦で、しかも彼のクラスでは並外れたパワーが売り物だったという点で、今回のガードナーと状況が似ていると筆者は感じている。

 おそらくガードナーは吉田を何度も投げるだろうし、それなりのダメージは与えるかもしれない。しかし、宮田が「打撃に力みすぎて予想以上にバテた」というように、慣れない総合の試合は彼のスタミナを予想以上に奪う可能性がある。
 また、極め技がないという点もレスリングは不利だ。ポジショニングは体重の分だけ有利だろうが、それはホイラー×宮田戦の展開と同じ。ホイラーは下からの三角締めで勝利している。吉田も似たシチュエーションでフライにも勝っているし、以上の点からも、不用意に打撃をもらわないかぎり、吉田有利というのが予想になる。

 ……これはガードナー擁する「チームクエスト」の作戦勝ちだ。おそらく筆者のような展開のありえることを予想をし、あえて自分の得意技を封印することで確実に勝つ道を選択したのだと思う。
 投げをやめてしまえば、吉田も打撃のスペシャリストではないので、ある程度は打ち合えるし、肉体的な面で優位に立てる。冷静な判断だ。吉田としてはあれ以上、手の打ちようはなかっただろう。


 ……つづいて、K-1「Dinamite!」の予想。

 ■曙×ホイス・グレイシー

 K-1で「初日」の出ない元横綱の曙が、総合に初挑戦。それがなんとあのホイス……ということで、話題を呼んでいる。
 100キロ以上ある体重差が注目されているが、有力選手の集結した直前の会見での「集合写真」を見るかぎり、ホイスは意外に大柄だ。もちろん簡単にはテイクダウンはできないと思うが、曙が倒れてしまえば、あとはホイスがほぼ100パーセント有利だろう。

 曙としては出だしの3分間が勝負だと思っているだろうし、スタミナの十分ある「相撲タイム」でのテイクダウンは、ありえないと思うが、横綱の威信に賭けても阻止したいところだ。
 立っていようが寝ていようが、スタミナの浪費は変わらないと思うが、それで言うと長引くほどに曙の動きは鈍くなるだろう。ここらへんは一般論とも変わらないので、この予想を裏切る驚きを見たい気がする。

 ……曙はホイスを押し倒したつもりだが、ホイスからすれば倒れたつもり。テイクダウン云々について言う以前に、ホイスは押しつぶされても何とかなる、寝てしまったほうが優位に立てると考えていたようだ。
 予想を裏切る驚きはなかった。少々的外れの指摘になってしまったが、経過自体は順当なところに落ち着いたという感じだ。曙は現代の相撲界の問題点を一身に背負っているような存在だと、つくづく思う。

 ■藤田和之×カラム・イブラヒム

 アテネ五輪のレスリング金メダリスト、あのカレリン以来の逸材と言われるイブラヒムの総合デビュー戦。
 タックルしてテイクダウンできれば、イブラヒムはずっと上のポジションをキープし、「判定で圧勝」という可能性が高い。

 藤田は打撃で活路を見出したいが、それほど技術的なスペシャリストではないので、あっさり倒されるような気がする。
 倒されて下からの攻撃もあまりイメージが湧かないし、体格では上回ってもパワーで上回っているとも思えない。どんな戦略でのぞむのか想像がつかないが、何か秘策でもあるのだろうか? 曙同様、イブラヒム有利の予想を、藤田には裏切ってもらいたいが……。

 ……筆者が言うまでもないが、イブラヒムは自己の能力を過信し、総合を甘く見ていたのだろう。ホイスのように手堅く得意分野に引き込めば筆者の予想通りだったはずだが、打撃で打ち合ってしまえば、いくらなんでも藤田のほうにアドバンテージがある。これは完全に作戦負けだ。


 ……このほか試合についても、気になった点について簡単にコメントしたい。

 ■魔裂斗×山本“KID”徳郁

 筆者の予想した通り短期決着の多かったDinamite!のなかで、唯一と言っていいハイレベルな攻防の見えた試合。メインはこの試合のほうがよかったという声もあるだろうが、それは結果論。ただ大きな実績になったことは確かだろうから、MAXのポジションは、今後かなり向上していくはずだ。

 ■秋山成勲×フランソワ・バッファロー・ボタ

 PRIDEで大苦戦した瀧本とは対照的な試合展開。でも、言い換えるなら、経験に関しては瀧本のほうが積むことができたということか。上がるリングは違えど、今後この二人を見比べていくのも、人間ドラマとして面白いかもしれない。
 なお、この試合に限らず、後追いで安易なマッチメーク批判をするのはやめにしたほうがいいだろう。
 
 ■安生洋二×ハイアン・グレイシー

 実力差はかなりあったが、これは「することに意義のあった試合」。一度でもポジションを奪うなり、攻勢できたら「安生の勝利」くらいに評価してもいいかと思っていたが、現実は甘くなかったようだ。
 安生はこの先もPRIDEに上がりたいような発言をしていた。気持ちはわかるが、ここは引いたほうが余韻が残ると思う。

 以上、それなりに楽しむことのできた大晦日格闘技決戦でした。

投稿者 長沼敬憲 : 2005年01月03日 17:05

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