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2005年11月13日

フードファイター“復活”と日本人の身体感覚

数年前、社会的なブームにもなった「フードファイト」が、今年になってようやく“テレビ復活”を果たした。
なんでもブームのただ中に、早食いのマネをした中学生が死亡してしまった事故が原因で、テレビ局が相次いで撤退。
あまた輩出していた日本各地のフードファイターたちは活躍の場を失い、メディアで取り上げられる機会もほどんどなくなっていた……。

筆者はこの「大食い」にブーム当初から注目していて、彼らフードファイターたちを、処女出版となった「サムライ」のなかで取り上げてもいる。
「サムライ」のサブタイトルは、(出版社がつけたものだが)「世界の常識を覆えす日本人アスリートの身体感覚」。
その観点から筆者は、イチローや宮本武蔵に注目し、イチローとはちがった中田英寿の魅力を分析、最後に「日本人にだけなぜフードファイターが多いのか?」という素朴な疑問をひもといてみたのである。

フードファイター、つまりは大食い・早食いというと、あまり関心のない人は“体育会系で焼き肉大好き”みたいな人たちの延長線上にイメージしているかもしれない(このイメージ自体、まあ偏見なのだが・笑)。
しかし、日本で開催される“大食い大会=フードファイト”においては、この種の体育会系は早々に脱落してしまい、たいていは“エッ、こんな人が?”という、細身の、見かけは普通の若者がハイレベルの戦いを繰り広げる。

その典型が、毎年アメリカの独立記念日に行なわれる「ホットドック早食い選手権」でぶっちぎりの連覇を続ける、小林尊だろう。
「サムライ」のなかから関連の箇所を、一部抜粋してみよう。

 出場者は主催国のアメリカを中心に、日本を含め、ヨーロッパなどから十数名。しかし……、日本のふたり以外はみないかにもという感じの、お腹の突き出た巨漢ばかり。それに対して新井(和響)の体重は、50キロ弱。小林も55キロほど(ともに当時)。同世代の日本人から見ても標準か、少し痩せすぎかと言ったところ。「痩せの大食い」などとは言うものの、その体格からして明らかに異彩を放っている。

 ……カメラはまず、スタートともに、チャンプ新井の食べっぷりに向けられた。ラビットとあだ名されているように、物凄い早さで目の前のホットドックを呑み込んでいく。……しかし、スタートして間もなく、その新井をも凌駕する「異変」が起こる。

 プリンス小林の食べっぷりが、尋常ではない新井をはるかに上回っている。テレビカメラが、慌てて小林にターゲットを絞りはじめた。日本の大食いのレベルが世界的にも段違いであることは筆者自身熟知していたつもりだが、それにしても早い。あまりに、早い。なんと開始5分で、昨年新井がマークした世界記録(25個)を超えてしまった。たった5分でホットドック25個である。

 30……、40……、世界記録を超えても、その挑戦はまだまだ続いた。
 時々食べたものを、胃から腸に下ろすかのように肩を上下に揺らしているが、勢いは衰えない。ついに50個! プリンスはほとんど苦痛の表情を浮かべることもなく、ぶっちぎりの大記録で優勝!

 
 彼のペースに刺激を受けたのか、昨年の覇者・新井も、31個という自己新記録で堂々の2位。ほとんどの出場者が10数個食べるので精一杯のなか、ふたりのレベルは完全に抜きん出ていた。しかも、最近では彼らに限らず、何とこのプリンスを撃破した“ジャイアント”白田信幸、ライバルと目される射手矢侑大、高橋信也、あるいは「旧世代」では岸義行や赤坂尊子などなど……、この大会で優勝できる大食いが日本には幾人も存在し、日々しのぎを削っているのである。

以上は、いわばブーム最盛期の大食いファイターたちの活躍ぶりの一端。
その後、くだんの死亡事故をきっかけにテレビ放送がなくなり、ブームが去ったことは書いた通りだが、メディアの報道しない水面下でも、新たなフードファイターたちが着々と育っていたようだ。
 
その代表が、春に“復活”したテレビ東京の「大食い王決定戦」で優勝した山本卓弥や準優勝の泉拓人といった面々だろう。
彼らは白田や射手矢らの次の世代のフードファイターということで、“第3世代”などと称されている。
(上記の文中で旧世代と記した岸や赤坂、新井らが“第1世代”、白田、射手矢、そして小林らが“第2世代”と位置づけられているようだ。
なお、テレビでは「大食い」は解禁されたが、リスクがより大きいとされる「早食い」はNG。このため、早食い系のチャンピオンである小林は、もっぱら海外の大会に“遠征”している。しかも、プロファイターとして!)

話がややそれたが、春の復活放送の第2弾として、この新旧の“世代対決”を目玉に放送されたのが、「元祖! 大食い王決定戦」(放送は10/30、11/6)。
番組のサイトから、内容を抜粋してみよう。

この春3年ぶりに復活した「大食い」の 第2弾。
全国から100名余りの大食い自慢が集結。東京と大阪で開かれた予選を見事勝ち抜いた6名が、前大会の大食い王を倒すべく、本選で激突する。

日本一の「大食い王」を決定する、熱く激しく感動的な戦い。今回は、かつて一世を風靡した伝説のチャンピオンも参戦。
まさに大食い"第2世代"と"第3世代"の意地をかけた対決が繰り広げられる。
果たして、真の"大食い日本一"は誰か!

上記にある6名の予選通過者が、本戦でさらに3名までしぼられ、ついに迎えたのが決勝のラーメン大食い対決。
90分の制限時間内にラーメンを何杯食べられるかを競うというもの(汁は免除)。
で、ここに勝ち残ったのが旧世代(第2世代)の白田、射手矢と、第3世代(新世代)の山本だったのである。
(射手矢は“家庭の事情”?で「西川」という変名を使っていた)。

この決勝は、年来の“大食いファン”からすると少々驚くべき結果となった。
なんと「日本最強」と言ってよかった“ジャイアント”白田が、19杯で途中棄権(ていうか、これだけでもすごいが……)。
優勝したのは、西川(射手矢)の追撃を交わした新世代の山本(西川24杯、山本25杯)。
フードファイト界の“世代交代”が実現した……。

と、ここまで書きながら筆者がつくづく思ったのは、「彼らはいったい何なんだろう?」ということ。
もう少し具体的に言うなら、先の「サムライ」のテーマとも重複するが、彼らのようなフードファイターが、なぜ日本でのみ量産され続けるのか? テレビ局のサポートもなくなり、ファイターの多くは学生や社会人としての日常を送りながら、それでも不思議なくらいに情熱が持続している。そして、突然変異的に新星が現れる。

これまで筆者は、大食いや早食いの“達人”が日本に多いのは、武道でいうところのハラ(丹田)の感覚が特異に発達してきた日本文化の、ひとつのバリュエーションであると指摘してきた。
フードファイターである彼ら自身、ほとんど自覚はないだろうが、冷静に考えてみても、風土との結びつきなしに彼らの出現をとらえることは難しい。

すなわち、世界有数の先進国でありながら、欧米のスタンダード(グローバルスタンダード)には染まりきらない、そんな“不思議さ”を持った日本。
その不思議な国(というより風土と言ったほうがいいか)から、イチローのような不思議な野球選手が輩出されたように、彼らフードファイターも出現した。
この不思議さのベースに、意識の中心を脳ではなく肉体上の中心=ハラに置く、日本特有と言っていい身体感覚が見いだせる……。

日本を“特別視”するということに違和感をおぼえる人もいるかもしれないが、現実問題、彼らのようなフードファイターが自然発生する風土が、世界のどこかにまだあるとは聞いたことがない。
あるいはそうした能力を持った人々がある国や地域に潜在的にいたとしても、テレビでああいうハイレベルな“試合”が放送される(つまり、社会的に彼らの存在を受け入れる土壌がある)国は、日本くらいしか見当たらないのではないか?

小林尊が一人勝ちしているアメリカのホットドック早食い選手権を見れば、それは一目瞭然……。
メジャーかマイナーかの差だけで、そのメガネを外せば、小林の活躍の意味合いはイチローのそれと変わらなく筆者には映る。
メジャーという話からの連想で言うなら、たとえば、いま日本ではフードファイトとは比べ物にならないくらい格闘技が人気だが、K-1にもPRIDEにも世界各地から強豪ファイターが続々と押し寄せてくる。
しかし、フードファイトに限っては、日本のファイターのレベルそのものが世界を大きく引き離している。だから、「世界大会」という企画はなかなか実現しない……。

フードファイターというと、ややもすれば好奇な目でしか見られない面があるが、特異な才能の持ち主であることは間違いない。
ただ、その才能のもとになっていると思われるハラという身体感覚については、まだピンと来ない人のほうが多いだろう。
孫引きになってしまうが、また「サムライ」から関連箇所を一部抜粋してみよう。

 たとえば、この本でも幾度となく紹介してきた、「肥田式強健術」の創始者・肥田春充は、さすがハラ研究の大家らしく(?)、武道家として「強さ」を発揮するばかりでなく、大食いにまつわる次のようなエピソードを残している。

 歯も立たないような、硬い章魚(たこ)の煮たのを、大皿へ盛ったのを、瞬く間に喰べて仕舞っても、喰べる底から、溶けて行って、何処へ這入ったか分らぬ位、二度も三度も立て続けに喰べても、何の事は無い。とろろ汁の飯だと、何時でも十二三椀はたちまちペロリと片付けて仕舞う。それで一時間もすればお腹の中はもう空同様だ。まあ実に恐るべき消化力で、我ながら痛快窮まりなし。これは若い昔のことではなく、昭和十一年、五十四歳、現在のことでありますぞ。
(「聖中心道・肥田式強健術・天真療法」より)

 普段は驚くほどの粗食で知られた肥田ではあるが、「喰べる底から、溶けて行って、何処へ這入ったか分らぬ」という下りなど、まさに大食いチャンピオンたちの心境を彷彿とさせるものがないだろうか?(彼自身、「消化力が無くて少食にしているのではない」ことを証明するため、あえてこうした大食いを披露したようだ)。

 要するに、これが筆者の言う、ハラの力なのである。ハラが働いているからこそ、食事の内容に関わりなく、たえず「活力」を維持することができる。当人にその気さえあれば、多少の「無茶」もまったく平気になってしまう。

要は、大食いという能力もまた、武道・武術に用いられる身体感覚の、ひとつの応用として位置づけられるのではないか? ということ。
よく「フードファイターたちが大食できるのは、胃を極限まで大きくできるからだ」という指摘を耳にするが、それは「ではなぜ、そのように胃を大きくできるのか?」という疑問の答えにはなっていない。現象面ばかりを追いかけても、その現象をカタチにする本質の部分は見失われてしまう。

また、ファイターたちの日常生活について見聞きするかぎりでも、いわゆる「過食症」といった病気とは明らかに性格が異なっている。
やはり、いちど従来の医学の常識から離れ、身体論の視点から彼らの感覚や能力をひもといたほうが本質が見えてくるのではないか?(→詳しくはこちら)。そしてそうすることで、世界を見る目そのものも変わってくる……。

さて、最近筆者はこのハラと関連して、「日本人には腸を“第2の脳”として捉える感覚が先天的にあった」といった意味の発言をよく聞くようになった。
たとえば、筆者が仕事で関係した健康食品関係のサイトにもこんな記事が載っていた。

半田「……あるとき、先生御自身が研究されていた低分子の水溶性キトサンを紹介していただきました。それがヌーススピリッツ共同開発のきっかけでした。ここで先生に少しお伺いしたいのですが、様々なキトサンがある中でなぜ低分子キトサンに精神効用が見られるのでしょうか?」

酒井「それが全くわかってないんです。いろんな推測があるんですね。

一番あるタイプの推測というのは、キトサン分子が肝臓に入ってこの副交換神経節を刺激していることが考えられます。暴力衝動等は全部、交感神経の働きによって起こるんです。交感神経というのは「戦い」と「逃げる」という『戦いのモード』なんですね。キトサンが副交感神経に刺激を与えることによって、この交感神経の昂りを押さえているという推測は十分成り立ちます。

しかし、それだけではないんです。というのも、単に交換神経を遮断する薬や副交感神経を刺激する薬はいくらでもあるんです。しかし、僕の治験経験から言って、薬だけではこのキトサンが起こしているような良好な変化は起こらないんです。だからそれとは違うはずなんです。

またもうひとつの説というのまたもうひとつの説というのは『腸脳論』といって腸とか脳がひとつのものだとさっき言いましたが怒りっぽいということのひとつに腸内でいろんな悪いものが造られるんですが、メタンとかプロパンとかが造られる。そうするとあっという間に血液の中に入って脳に作用して人間を凶悪化するんですよ、実は。そういうような意味もあるかもわからない」

*1……半田広宣氏(ヌースコーポレーション代表)
*2……酒井和夫氏(精神科医、医学博士)


現役の医師(精神科医)がこのような発言をするようになったところに、古くて新しいスタンダードが台頭しつつあることを予感させる。
ここでいう身体感覚としてのハラと臓器としての腸の関係については、個人的にも興味があるので、また機会をつくって検討してみたいと思う。

“復活”したフードファイトに関しては、今後もぜひとも継続してほしいが、社会的な偏見がなくなれとまでは筆者は言わない。
しかし、「たかが」と思って馬鹿にしていると、素朴な疑問はどんどん封印されてしまう。アタマがどんどん固くなっていく。
問題はむしろそこにあることに気づくべきだろう。


(追伸)
じつは、今回の「元祖! 大食い王決定戦」のテレビ収録の数週間前に、筆者はある雑誌の企画で白田を取材している。
現在白田は某IT関係の会社の営業マン。ウイークデーは深夜にまで仕事がおよび、大会前の貴重な休日にも取材やらイベントやら……。
「練習の時間がない」と本人がこぼしていたように、おそらくぶっつけ本番に近い状態で大会にのぞんだのではないだろうか?

仕事とはいえ、ちょっと足をひっぱったかなという思いも……。


投稿者 長沼敬憲 : 2005年11月13日 10:32

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