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2004年08月30日
■「プロ野球合併問題」と「一歩引く覚悟」
近鉄とオリックスの合併問題をきっかけに、プロ野球のあり方がさかんに議論されている。要するに、昔から「人気のセ、実力のパ」などと言われてきたが、これは「巨人人気の恩恵を受けているセ」「受けていないパ」というのが実体であったということが、もはや否定できないくらいはっきりしてきたということだろう。
で、特に経営状況が逼迫している近鉄が、自力での球団再建を事実上諦めてオリックスとの合併交渉を始めていたところに、「それならウチが買収します」と名乗りを挙げたのが、IT事業で昨年度の年商が58億という急成長を遂げているライブドア社長の堀江貴文氏。
ただ、この申し出を近鉄は拒否。各球団のオーナーもおおむねその参入には否定的で、要するに堀江氏の実績や若さ、あるいはいつもTシャツで通す「社会通念のなさ」などに生理的な反感、「うさん臭さ」を抱いているようだ。つまり会社どうこうというより、人間的に信用できない(したくない)というところなのだろう。
結局、ファンや選手の声を「無視」した形で、合併を前提にした「1リーグ制への移行」「2リーグ制の維持」が議論されているなか、「1リーグ制」の実質的な推進者だった巨人の渡辺恒雄オーナーが突然の辞任(8月13日)。ドラフトで目玉だった明治大学の一場靖弘投手に球団のスカウトが、200万円を渡していたことをネタに右翼団体に脅迫されたことが原因と言われているが、予想以上の「国民・選手の反発」「巨人戦の視聴率の低下」などに嫌気が指したのではという見方もある。また、読売グループのトップの座から降りたわけではないので、今後も裏から球界への影響力を駆使するのではともささやかれている。
ちなみにオーナーを辞任して以来、最近渡辺氏が公の場に姿を現し、記者の取材に答えたようだが、抜粋すると、
「急に6球団が4になったら1リーグにしないといけないなと考えたこともあるが、7月の段階でオレは2リーグ制を各方面に説いて、球界の首脳には、何人かには言ってある」
「ただし、交流試合を入れた新しい2リーグ制だ。5対5の2リーグ。これでやる、と確固とした考えで、7月の頃から各方面を説得している。かなりの同調はあるが、反対する人もいるかもしれない。オレは2リーグ制論者だから」
(以上、8月28日「スポーツニッポン」より)
微妙にこれまでの論調をずらしているような感がある。このままで行くと、彼の主張するあたりに事態が落ち着く可能性も見えてきた。もちろんそれが本当の解決にはならないという声もある。とまあ、こんなところがここまでの大ざっぱな経緯だろう。
これらをふまえて、まず当たり前のこととして理解しなければならないのは、球団の運営権はお金を出している親会社とオーナーが握っているのだということ。渡辺前オーナーのように「たかが選手」というのは問題だろうが、会社として考えれば選手は社員であり、経営に参画していない以上、古田のように選手会の立場からしか意見は言えない。
そしてそのオーナーたちは、老害などと批判されているが、これまで問題の多い球界を牽引してきたという自負を少なからず持っているであろうということ。自分たちが無理して頑張ってきたから、仮にもやってこれたのではないかというのが、彼らの本音であり、プライドであると筆者は思う。球界が発足した初期の頃から巨人中心で成り立ち、関係者も含め少なからずその恩恵に与ってきた以上、赤字の責任をオーナー(親会社)の才腕にすべて押し付けられない面が当然あるわけである。
つまり、批判されている彼らにも人間としての「感情」がある。これを無視したり、軽んじるような感覚で「正論」を述べても、反発されるのは目に見えている。その反発をさらに批判すれば、ますます問題はこじれていく。
加えて球界に彼らを任免する権利を持った立場の人間、役職はない(コミッショナーにそのような力はない)。会社で言えば社長なのだから、問題を起こした場合の引責も含めて、出処進退は基本的には本人たち(あるいは親会社)の意思に委ねられている。選手やファンの意見を汲み上げるのは必要なことだが、それは絶対の義務ではない。汲み上げようが汲み上げまいが、きちんとやれていればそれはそれで正論にもなる。
ファンは民主主義の原理を球団にも求めようとするが、民主主義で会社経営をするようなところは現実にはない。社員の昇格・昇級をもし選挙で行う会社があったら、そんなところはとっくに潰れているはずだ。
で、こうした「常識」をもとに考えていくと、まず堀江氏の球団買収は「うまくいかなくて当然」という話になってくる。
個人的には、あの年齢(32歳)であれだけの事業展開をしている才腕を球界で生かせたら結構面白い展開も可能(球団の黒字経営も不可能ではない)気もするが、彼にそれだけの熱意や構想があるのなら、よく言われているようにTシャツでの会見はいただけない。彼が活躍している土壌(IT業界)ではそれで通ってきたのだと思うが、誰を相手にするかを最初に発想すればイメチェンも戦略の一つだったことがわかるはずだ。そんなものは関係ないと言ってしまうと、成り立たない世界がそこにある。
繰り返すが、どんな人間にも感情(プライド)がある。世間(マスコミ)から一番根本の経営能力を疑われているオーナーたちが、自分たちの苦労を共有できるかわからない「若僧」の提案にホイホイうなずくはずはない。これは別にオーナーを弁護しているわけではない。彼らを批判するのは簡単だが、それでは出口は見つからないと言っているわけである。
筆者が堀江氏の立場にあって、もし球団買収を画策するなら、マスコミに発表する前に最低限オーナーたちに根回しをする。もちろんスーツを着ていき、礼儀正しく接して、人生の先輩に対するリスペクトも忘れないように心がける。その上で自分の熱意を伝えて、「ああこの男になら任せていいんではないか」と思わせるようにする。実際にうまくいくかはわからないが、マスコミ先行で会見を開いて、あとでオーナーにファクスで「いずれ挨拶に伺いたい」などと書面を送っても、「何だそれは?」の話だと思う。残念ながらこうしたレベルの戦略しか見えない堀江氏のやり方は、オーナーに反発するファンや選手会から一定の支持は得られたとしても、そこから先の絵が描きにくい。悪く言えば「売名行為だったのでは?」ということにもなる。
さて、堀江氏の件はこのくらいにして、では現実に球界をどう誘導していけばいいのだろう? 筆者は経営の専門家でもないし、球界のコンサルタントでもないから、1リーグ制がいいのか2リーグ制がいいのかなど、正直わからない。ただ現実問題として、先に触れたように球界全体の経営権、運営権はオーナーが握っている以上、多少問題があるとしても「行き着くところまで」彼らにやってもらうのがいいと思う。それが1リーグ制への再編というなら、筆者はそれを支持したい。
逆に言えば彼らは「こうやります」という戦略なり、方針をわかりやすくファンや選手の前に提示して、それに全身全霊を賭ける意思を見せないとならない。そのうえでうまく行かなかった時、初めて明確な責任が問われてくる。
そんなふうに安易に任せたら球界は滅茶滅茶になると言われるかもしれないが、どういう形にせよ改革しなければ先細りになるのは大方の一致した見解であるはず。であるならば、現時点で「権力」を持っている人たち(オーナー)にすべてを任せる。彼らの主導で改革なり再編をやってみる。選手会は雇用の問題などで可能な限り選手のケアを行ったうえで、引くところは引いて協力をする(現実にはいいプレー、必死なプレーを今以上に見せていく)。マスコミも批判のための批判はしない。
もちろん選手会なり、前出の堀江氏など在野の経営者、事業者なり、球界のOBなり、こうした推移を見守りながら、「うまく行かなかった場合の改革案」についても具体的に用意しておく必要があると思う。オーナーたちも手を尽くしてそれでもうまくいかないとなれば、その改革案に従うしかなくなる。その時が本当の球界再編の時なのかもしれない。それを今の段階で出してもうまくはいかないし、第一そんな準備をきちんとしてきた人はいるのか? いるならば先の話ではないが、きちんと必要な根回しをして、出るべき時に表に出ているはずだ。いまできないのなら、数年先を見越してその準備するべきだということになる。
現状のプロ野球界は、ある意味江戸幕府の末期のようなものだと言えるかもしれない。幕府主導で進めた改革がどうにも行き詰まった時、歴史の世界では「大政奉還」が行われ、その後の曲折を経て、ガラッとシステムが変わってしまった。まず議論が大切だなどと言う人がいるが、議論をして歴史が変わった試しはない。実際問題、それぞれ(たとえばオーナー側と選手会側)が意見を主張していても噛み合わないし、事態は進展しないしないままに悪化していく。「小田原評定」という言葉を思い出して欲しい。
選手会側は「要求が受け入れられないならストもあり得る」などと考えているかもしれないが、本当に改革を望んでいるなら一度相手の提案を受け入れる形で、必要最低限の要求をしたほうが現実的だ。その上で繰り返すが、「自分たちならどうするか?」戦略も練っておく。野球というスポーツはゲームとしては面白く魅力があり、衰退はあってもこの地上から(というより日本から)姿を消すということはないだろう。現実がどんな推移で展開していくかは不透明な部分もあるが、どの立場の人であっても「一歩引く覚悟」があれば物事は進展する、ということを理解したほうがいいだろう。
投稿者 長沼敬憲 : 2004年08月30日 00:52