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2005年09月03日

■9.11・衆議院総選挙の「その後」を予想する

前回に引き続き、間近に迫った衆議院選挙の話題を。
「郵政民営化」を最大の焦点にすえる小泉自民党(および公明党)に対して、焦点はそれだけではないと反論する、岡田民主党をはじめとする野党。

筆者は、政策の中身を重視する「まじめで」「理論的な」岡田民主党では、良くも悪くも論点を単純化させ、構造を見えやすく国民に示した「頭のいい」小泉自民党に、なかなか勝つのは難しいといった趣旨のことを前回書いた。

「まじめ」な岡田氏から見れば、小泉総理は「いい加減」に映る。その印象は国民もある程度は共有しているけれども、「まじめ」な人間というのは、前任者がよほどの汚職でもやらないかぎりは表舞台には立てない面がある。

たとえば、古くは江戸時代、「賄賂政治」で知られた田沼意次のあとに「改革」を掲げて登場した松平定信。
また、昭和で言えば、「ロッキード事件」で退陣した田中角栄のあとに内閣を組織した三木武夫。
彼らの人物的な評価は別に、「クリーン」「清貧」というのは、庶民受けはするが、政治家としてのパワーは落ちる面がある。まして、今回の小泉自民党は、汚職問題が取りざたされているわけでもない。

余談だが、歴史的な評価を見ると、松平よりも彼に失脚させられた田沼のほうが、積極的な経済政策を推し進めた“改革派”として、近年再評価を受けている。
また、同じ意味で「クリーン」な三木よりも、「犯罪者」である田中のほうが、後世の評価は高くなる可能性がある。
歴史は、個人の好き嫌いで論じられるものではないからだ。

要は、「器」というものが、善悪を超えて歴史のありようを左右するということ。
このへんのことは前回それなりに書いてきたので、今回はもう少し別の視野から「総選挙後」の争点について絞り込んでみよう。

小泉氏は、よく知られているように徹底的な「親米路線」をとってきた。
これに対して岡田氏は、もっと幅広い国際協調のようなものを主張するかもしれないが、それを安易に押し進めるとかえっていばらの道にも進みかねない。
現状の世界を見つめた場合、日本の有力なパートナーになりえる「器」を持っているのはアメリカしかいないからだ。
筆者は別に親米派ではないが、小泉氏の外交路線は、その点の認識において非常に「リアリスティック」であると言うこともできる。

筆者が何度か取り上げたことのある国際情勢解説者・田中宇氏の分析によると、小泉氏が中国や韓国の批判も顧みず靖国参拝をやめないのは、歴史認識の問題というより、彼らと手を組まないことの、つまり「日本はアメリカとの関係を大事にしていますよ」ということの「意思表示」に他ならないという(言うまでもなく、アメリカに対しての意思表示にもなる)。

確かに、東アジアの協調を口にするのは簡単だ。そのほうがリベラルで、理性的な印象を与えるかもしれない。
しかし、戦後60年にわたって築いてきたアメリカとの関係はなかなか強固だ。
対米追従などと言われるが、アメリカと講和条約をした吉田茂などは、剛腹にも、アメリカは“お番犬様”、つまりは膨大な軍事費を肩代わりして日本の平和を保証してくれた“ありがたい存在”と位置づけていた面もある。
良し悪しは別にして、持ちつ持たれつでやってきた“腐れ縁”的な関係なのである。

もちろんアメリカも、日本が軍事的に自分たちを「利用」して、経済繁栄してきた事実はさすがに認識しているだろう。
“冷戦”もとうに終結したいま、いつまでもガードマンでい続ける必要はない。この先は憲法改正させて、これまでのような過剰な軍事的肩代わりを解消させようと、当然意図しているはずだ。
日本の中にも対米追従をやめて、「普通の国」として自立しようと考える政治家は少なくない。そのため、憲法改正の議論も盛んになってきている。

アメリカとの関係を見直すということは、当然、軍事の問題とも密接に関わり合う。
憲法9条をそのままにして、しかもアジアとの協調を図るという共産党や社民党の主張は、現実的にはかなりの理想論に見える。
アジア寄りになればなるほど、アメリカとの距離は生まれる。ということは、彼らの忌避している軍隊を自前で編成して、国防に備える必要も出てくる。

このへんのバランスは非常に難しい。ならばいっそのこと、深く考えずにアメリカにべったりくっついたほうが確実だという、小泉流の発想が生まれる。
複雑なものより単純なもののほうがパワーが生まれる。
野党はこのパワーを崩せないでいるし、こうした構造そのものが見えていないのではないかという節もある。
実際、どうなのだろう? テレビを見ていても、こうした質問を誰もしないので、なかなか問題が浮き彫りにならない気がするが……。

いずれにせよ、国がどのような政策を選択しようが、日本はどこかの国と手を組み、協調していく必要はある。
しかし、アメリカから東アジアの協調路線に鞍替えするのは、繰り返しになるが、現状ではあまりに冒険であると筆者は思う。
覚悟しての冒険なら乗ることもできるが、その覚悟が見えてこない。
アメリカともアジアともうまくやっていきますという程度の言い方では、観念論をかざしているようにしか映らない。
(単純化の小泉氏に勝つには、別の意味での単純化が必要だが、彼らは「物事はそんなに単純ではない」という当たり前のことしか、結局口にしていない。道理と戦略というものを混同していないだろうか?)

前述の田中氏によれば、中国も韓国も、本音レベルでは日本との協調を望んでいるという。
昨今の歴史問題に目をくらまされている感があるが、地理的にも近く、経済力のある日本ともっと親密な関係になれたほうがいいと思うのは、(少なくとも為政者レベルに立てば)きわめて現実的な感情であるとも言える。
ただ、日本に従属するわけにはいかないし、イニシアチブを握られたくないという思いがあるから、ストレートに話が進まないというだけの話。

加えて、肝心の日本は(日本の政治家は)、そこまで中国や韓国を信頼はできない(そこまでの器量はない)と思っている。
そして、それもまた現実的な判断であると筆者も思う。
いくら経済発展しているといっても、現在の中国は不確定要素の多すぎる。アメリカにももちろん問題は多いが、国としての安定度、信頼度を考えたら、正直、同じ土俵に乗せて両国を比較するには無理があるように思える。

たとえば今回の総選挙で民主党が躍進して、単独政権が生まれたとしよう(現実的には考えられるのは、躍進あたりまでだろうが)。
「岡田政権」は、小泉氏の親米路線(対米追従)を批判してきた以上、アメリカとは距離を置き、その分アジア寄りの外交を展開することが求められる。
具体的には、靖国参拝をやめ、中国や韓国のメンツを立てることで、両国との緊張関係も緩和されていく可能性はある。
しかし、中韓と協調し、東アジア(あるいはアジア)に経済の主軸を置くということは、繰り返しになるが、「アメリカにも、アジアにも」ということではない。

言ってみれば、いままでつきあってきた彼女はそのままで、新しい彼女ともつきあうというようなもので、へたをすれば、両者から見捨てられる可能性もある。
少なくとも、アジアとの協調を考えるのなら、アメリカを敵に回す可能性をも想定しておく必要がある。
となれば、先にふれたように、憲法改正もいま以上に現実味を帯びてきて、憲法9条を改正しなければならない状況も出てくるかもしれない。

というわけで、岡田民主党に変わるということは、我々が思っている以上に劇的な変化を伴うということだ。
当たり前の話だがよほどのリーダーシップがなければ、アメリカとの友好関係がいたずらに崩れ、中国や韓国に政治的に利用され……、おそらく小泉自民党以上の「失策」をやらかす可能性が十分にある。
繰り返すが、大事なのは政策の中身ではないということだ。理論が先行している感のある民主党は、その意味でまだ国民に信頼されていない。
いわば、そこが最大のアキレス腱になっている。

逆に言うならば、民主党が理論先行型なのは、野党に政権奪取の経験がほとんどないからでもある。
国政に対して実務経験がなければ、頭でっかちになるのも仕方ない。
その意味では、民主党に政権政党としての経験を積んでもらうことも、日本としては必要な選択と言えるかもしれない。
そうさせてもいいかなと思わせる要素が少しでもあれば、それが追い風になるわけだが……。

日本は確かに「戦後以来の大きな曲がり角」に来ていると、筆者も思う。
この曲がり角は、世界的な曲がり角にもリンクしているし、おそらくすべての人が大きな「変化」の渦に巻き込まれるだろう。
いま求められているのは、ありきたりの言い方になってしまうが、自分自身の「本質を見る目」を養うこと。

そのためには、目の前に展開されている現象を題材にするのも悪くない。
今回の総選挙をそうした視点で捉えることができれば、「誰が(どこが)勝つか」以上に興味深いことが見えてくる。
おそらくメディアは投票率を関心度に結びつけて報道するだろうが、「投票するかどうか」も含めて、自分の目を使って真剣に判断したほうが自分自身のためになる。

小泉自民党が勝った場合、ポスト小泉は、現状では安倍晋三氏あたりだろうか?
誰がなるにせよ(岡田氏も含めて)、おそらくアメリカとアジアの間での微妙な舵取りが強いられるだろう。
そのなかで自身の「器」を磨けるような政治家が現れるかどうか? そのあたりが今後の興味の焦点になってくるかもしれない。

投稿者 長沼敬憲 : 2005年09月03日 08:54

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