世界最強と言われるイタリアのサッカーリーグ、セリエAで活躍する中田英寿を見ていると、そのバランスのよさ、判断力、勝負強さなど、サッカー選手である以前に、人が生きていく上での大切な能力を、数多く持っていることに気づかされる。
……いったい彼は、そうした才能をいかに手に入れたのか?
そのような興味を抱いた人は少なくないだろうが、どうやらみな、答えらしい答えを持ってはいないように見受けられる。というより、彼は特別だからの一言ですませ、それ以上の追求などしていないのが、ほとんどではないだろうか?
実際彼は、とりたてて身体が大きいわけではなく、ウエイト・トレーニングで身につけたというその筋肉も、決定的な要因だったというわけではない(まだ細かった中・高校時代から、その才能の片鱗を見せていた)。また、いい恩師にめぐり合えたにせよ、他と比して、特別な英才教育を施されたとも言えないだろう。加えて彼には、従来のスポーツ界の常識からすれば、あまり好ましいとは思えない欠点がある。
それは、偏食であるということだ。肉が好きで、野菜がきらい。
どうやら生まれついての体質によるものと言えるらしく、最近では自炊もし、野菜も摂るようにしていると言われるが、イタリアで暮らすようになったいまでも、基本的には肉料理中心の食生活をつづけているようだ。たとえば、彼のホームページを出版化した「nakata,net 98-99」にも、ペルージャ時代にお世話になったという大家さんの親族との、こんな微笑ましいエピソードが記されている。
彼らとは、2回目の食事だったわけだが、前回は彼女達が料理をご馳走してくれたので、今回はこちらがすると息巻いたものの……。
結局作ったものは、「ご飯」、「イシイのミートボール」、「レトルトカレー」。
ちょっと自己嫌悪。でも、次にはちゃんと「お手製カレー」と「豚のショウガ焼き」でもつくろっと!!
でも、彼女たちは嫌な顔一つせずに、おいしいと言って喜んでくれた。特に「イシイのミートボール」に関しては、13歳のEVAと共に満足。「カレー」は以前食べたことがあったらしく、味はまあまあとのこと。まっ、レトルトだしなー。
……なかには、一流のスポーツ選手というからには、専属の栄養士などがついて、きちんとした食事管理などがなされていると、想像していた人もいるかもしれない。
しかし現実には、遠いイタリアの地で一人暮らしをしながら、現代栄養学の知識とはほど遠い、かなりたくましい食生活を送っているようだ。しかもその上で、トップチームであるASローマやパルマに所属し、同時に日本代表の中心選手として、あるいは先のシドニー五輪の代表として、世界各地を転戦しているのである。
そんな彼のエネルギー源の多くが、「ミートボール」や「カレー」など、ただ温めるというだけのレトルト食品にあったというのは(もちろん、それだけではないわけだが)、ある種、驚きを感じてもいいことではないだろうか?
じつは、日本のスポーツ界には、おなじような偏食家が、もうひとりいる。
すでにお気づきの人もいると思うが、第1章でも取り上げた、野球界の革命児・イチローである。彼もまた幼いころから野菜が大嫌いで、ふだん口にしていたのは、肉や刺し身が中心。たくあんだけは野菜だと知らず好物だったというこれまた微笑ましいエピソードもあるが、とてもバランスが取れていたとは思えない。しかしそんな常識破り(?)の彼が、のちに数々の常識破りの記録を打ち立てていくわけである。
もちろんイチローも、高校時代には野球部の寮生活を体験し、かなり偏食を矯正されたようだ。また、部あげてのウエイト・トレにより、ひ弱だった身体もずいぶんたくましくなったと言われ、プロ入り後の近年では、スポーツトレーナー・小山裕史氏の「初動負荷理論」を導入するなど、その身体づくりはさらに本格化している。結婚したことによって、食生活のほうもずいぶんと充実したはずだろう。
しかし、そうした努力によって、彼の才能が開花したのかというと、少しわけが違う。
中田の場合もそうだが、食生活や筋力トレーニングなどは彼らの才能を引き出すプラスアルファであって、決して原因ではない。こと中田に至っては、あれだけの結果を残していながら、あまり現代栄養学の恩恵に与かっているとは言えないはずだ。
つまり、彼らの強さの秘密は、筋肉でもなければ、栄養でもない。
もしそういったメリットを取り入れただけで一流になれるなら、もっとスポーツ界の水準は上がっているはずだが、現実には、同じような努力をしても、明らかに差が生じてしまう。それらが不要とまで言うつもりはないが、いったい何が違うのか? 冒頭でも述べたとおり、彼らをただ特別視するだけでは、そもそも「才能がある」とはどういうことなのか、その意味すらつかめないのではないだろうか?